俳優をはじめ、監督、照明、録音とスタッフが集まっての撮影は、ときに五〇人以上もの人数になることがあります。かと思えば、八畳ほどのスペースに十数名もがひしめき合い、「もうこれ以上は人が入れない」という状況になることもあります。いずれの場合も、本番前の緊張は同じ。「諸々よろしいですか!本番入ります!」の声がかかる瞬間、場の緊張感は最高潮に達します。全員の気持ちが集中し、空気が張り詰める。その状態で「ちょっと待ってください!」と声を出すのは本当に勇気がいること。一瞬にして空気が緩み、「はい、直し入ります!」と声がかかるときの申し訳なさは言葉では表せません。「一分ください!」と言いながら手早く直しても、いったん解けた緊張が戻るまでそれなりの時間を要します。だから本番前の直しはできるだけ避けたいというのが気持ち。そろそろ本番にいきそうだなとタイミングを計り、「ラステス(ラストテスト)」の声が出たときにきっちり修正しておくなど、気も大変遣います。ところがそうして気を遣っても、「ちょっと待ってください!」と声を出さなければならない事態が生じることもあります。待ち時間の間に女優さんが自分で顔を直してしまい、いざ本番というときにとんでもなく厚塗りになっていたなんてこともありました。そうした異変に気づいたときの焦りは半端ではありません。「諸々いいですね!」の声には、あからさまに「入ったら承知しないぞ!」という、牽制とも脅しともつかない雰囲気が漂っています。「わあ、前のカットとつながらない!どうしよう!」となったとき、その空気感に負けて「本番前の空気を乱したくない、まあいいか」と妥協してしまうと、オンエアで確認した際に一〇〇%、「ああ、しまった。やっぱりつながっていない……」という結果が待っています。